京都探訪記―法然院の谷崎潤一郎とマンガミュージアムのキダタロー
生まれ育った東京ではなく,京都のこの地に墓をつくった谷崎潤一郎の真意をうかがわせる記述が『瘋癲老人日記』などにありますが,西に開けたこの場所が“西方浄土”を望むことができる場所であるということが意外に重要ではないかという気がします。
三方を山に囲まれた京都の東端にあるわけですから,都を一望できる場所でもあり,美しい落陽を望める場所でもあります。
京都を愛した谷崎潤一郎が,ここで永遠の眠りを…と思った気持ちはよくわかる気がします。
ところが,悲しいことに,谷崎潤一郎が墓を作った当時はおそらくなかっただろうと思われる杉の木が,写真の通りに林立しています。生前は素晴らしかったと思われる墓地からの眺望が,大きく成長した杉の木によって無粋にもさえぎられてしまっているのです。
谷崎潤一郎はこんな光景を望んではいなかったはずです。
石とのバランスが崩れるぐらいに大きく育ってしまっている枝垂れ桜の姿を含め,現在の墓地の光景を草葉の陰の谷崎潤一郎はどんな風に受けとめているのでしょうか。
花粉症に悩まされながら飛鳥・奈良・京都とめぐっていた私は,こんな杉の木は切ってしまえばいいのに…と思いながら,「寂」の文字が刻まれた墓石のかたわらにたたずんでいました。
小学校だった建物を改修して作られたミュージアムに入ると,まずは開催中の特別展「紙芝居百年展」を見ました。
面白い展示がいっぱいあったのですが,「ゲゲゲの鬼太郎」の原型としてアニメ化されて話題を呼んでいる「墓場鬼太郎」には,水木しげるのものだけではなく,竹内寛行という漫画家のものがあるということがわかったときは,とても驚きました。
でも,いちばん面白かったのは,作曲家のキダタローさんが登場した「関西発 テレビCMの〈音〉─うた・間・ことば─」というシンポジウムです。
(え~と,まぎらわしいんですが,キタローさんじゃありませんよ。キダタローさんです。念のため)
キダタローの世界
シンポジウムの冒頭,司会者をつとめていた関西学院大学の小川博司さんがプロジェクターを使って次のような言葉を映し出しました。あ~らよ、出前一丁 有馬兵衛の向陽閣へ 関西電気保安協会 タンスにゴン最初の3つは,文字列を見るとメロディーが浮かびます。
というか,メロディーぬきで言葉だけを「読む」ことが困難なほど,これらの文字列はメロディーと一体化してしまっています。
最後の1つも,ある特有のイントネーションとリズムがついてまわります。
短いけれど印象的なこれらのフレーズのうち,最初の2つのメロディーを作曲したのが,キダタローさんです。
小川博司さんによると,1950年代から1970年代までのコマーシャルは,イメージソング時代だそうで,東京を中心とした全国ネットレベルで考えると,三木鶏郎,いずみたく,小林亜星という傑出した3人の作曲家によって発展してきたと言えるようです。
プロポーズ大作戦,ラブアタック!(朝日放送テレビ),花の新婚!カンピューター作戦(関西テレビ),2時のワイドショー(よみうりテレビ),キューピー3分クッキング(日本テレビ) など,テレビ番組のテーマ音楽をたくさん作曲しています。
日本海みそのCMソングなどは,「津軽海峡冬景色」真っ青の“にっぽんの歌”という感じです。
♪雪がしんしん降る朝は 剣、立山、黒部は寒く 雪ちゃんの便りはこうじ味噌 心ほのぼのお味噌汁 恋しいな 母さんの味 あーあ越中 日本海みそ♪これは文句なしの名作CMソングです。
今回のシンポジウムを主催した京都精華大学表現研究機構には,これらのCMを含む多くのCM作品を収蔵したデータベースがあるらしいのですが,今のところ内外の研究者が容易にアクセスできるような条件整備は進んでいないようです。
これらのCMを見ようと思ったら,ユーチューブで見るしかないのが現状です。たぶん違法にアップロードされているものなのですけど…。
ミュージアムの建物を出ると,校庭だったところが一面の人工芝になっていて,外国人を含む老若男女が館内各所に並べられている蔵書の漫画本を持ち出して,ごろごろ横になりながら熱心に読みふけっていました。

