BUNGAKU@モダン日本_archives(旧・Yahoo!ブログ)

2005年2月18日〜2019年12月15日まで存在したYahoo!ブログのデータを移行しました。

2012-03-01から1ヶ月間の記事一覧

絲山秋子の「ベル・エポック」(2)―友だち以上,親友未満。

(承前) ネタバレ注意です! 絲山秋子の「ベル・エポック」(短編集『ニート』所収)について,引き続きぐだぐだと考えてみます。 友だち以上,親友未満。 初代トヨタ・サイノスのコマーシャル(1991年)に使われていた秀逸なキャッチ・コピーに「友だち以上…

絲山秋子の「ベル・エポック」(1)―独特の距離感

ネタバレ注意です! 絲山秋子の「ベル・エポック」(短編集『ニート』所収)は,まさに「一読三嘆」なのですが,再読するとさらに「ん?」とか「ええっ!?」とか「ほぉ~」とかということになるコスト・パフォーマンスの高い短編小説です。 すでに10回ほど…

絲山秋子の「ベル・エポック」(序)―ネタバレなしでとりあえず…

短編小説の愉楽 名作の条件とは何かと考えたときに,少なくともその一つは,何度も何度も読み直すことができる“強度”を持っていることです。 より多くの人を倦むことなく読み直すことに促し,そのつど愉楽を与える文学。 何度読んでも深く豊かな感興を与える…

心のケアと脱原発―震災記(13)

震災とことば 計画停電が実施されていた昨年の5月に,「震災記(9)」にこんなことを書きました。 大型連休を利用して初めて夜の渋谷にやって来た東京近郊の男子高生3人組による会話です。 男子高生A「てか,やばくね?これ」 男子高生B「ほんと,やっ…

山田詠美と山田双葉―1980年代文学論ノート(その5)

五、インヴィジブルマンとしての山田詠美 山田双葉としての歩みに終止符を打つことになったのは、「ギャルコミ」と呼ばれて親しまれた主婦の友社発行の少女漫画雑誌『ギャルズコミック』に六回にわたって連載された「ヨコスカフリーキー」(一九八二年三月~…

山田詠美と山田双葉―1980年代文学論ノート(4)

四、「ベッドタイムアイズ」の世界 文藝賞受賞時に「すべての文章が完全に機能している」とまで絶賛された「ベッドタイムアイズ」だが、子細に読んでいくと芥川賞の選評で指摘されたような表現上の瑕疵を見出すことができる。たとえば、スプーンと初めて出会…

山田詠美と山田双葉―1980年代文学論ノート(3)

三、山田詠美の誕生 山田詠美のデビューをめぐってまず注目しておきたいのは、文藝賞と芥川賞の選評における「ベッドタイムアイズ」評価の落差である。 文藝賞の選評(注5)で最大級の讃辞を贈っているのは江藤淳で、「山田詠美『ベッドタイムアイズ』を一…

山田詠美と山田双葉―1980年代文学論ノート(2)

二、芥川賞をもらえなかった理由 高度成長期の終焉後の一九八〇年代にデビューし、人気と実力を兼ね備えた作家として活躍を続ける山田詠美は、新人作家が純文学の正当な継承者として登録されるための通過儀礼の機能を果たしていた芥川賞を受賞していない。も…

山田双葉と山田詠美―1980年代文学論ノート(1)

一、ポルノ雑誌のなかの山田双葉 「ベッドタイムアイズ」で作家としてデビューする前の山田詠美は、商業誌を舞台に活躍する漫画家だった。しかも本名の山田双葉という名前で発表された漫画には、『漫画エロジェニカ』(海潮社)、『漫画大快楽』(檸檬社)、…

「共喰い」と「道化師の蝶」を読む―ふたたびの芥川賞ダブル受賞

昨年の今ごろ,朝吹真理子の「きことわ」と西村賢太の「苦役列車」の2作品が第144回芥川賞を受賞し,大きな話題を呼びました。単行本はいずれも10万部を超える売れ行きを見せ,両作品が掲載された『文藝春秋』3月号も通常部数の約2割増に相当する75万…