野中潤の綴り方
おひさしぶりです。 ふと気づくと,9月の下旬以降,3カ月以上にわたって記事をアップしていないという事実に気づきました。 何も書いていなかったわけではなく,日々の暮らしに精一杯に向き合いつつ,あちこちにいろんなものを書き散らしておりました。 さ…
ある研究者の論文を専門を同じくする研究者が値踏みして採否を決める「査読」というシステムについて、再検討が必要だという声を耳にすることがある。たとえば「研究者が研究者の論文を評価するということ」(2007年5月『日本近代文学』第76集)で宗像和重は…
五、インヴィジブルマンとしての山田詠美 山田双葉としての歩みに終止符を打つことになったのは、「ギャルコミ」と呼ばれて親しまれた主婦の友社発行の少女漫画雑誌『ギャルズコミック』に六回にわたって連載された「ヨコスカフリーキー」(一九八二年三月~…
四、「ベッドタイムアイズ」の世界 文藝賞受賞時に「すべての文章が完全に機能している」とまで絶賛された「ベッドタイムアイズ」だが、子細に読んでいくと芥川賞の選評で指摘されたような表現上の瑕疵を見出すことができる。たとえば、スプーンと初めて出会…
三、山田詠美の誕生 山田詠美のデビューをめぐってまず注目しておきたいのは、文藝賞と芥川賞の選評における「ベッドタイムアイズ」評価の落差である。 文藝賞の選評(注5)で最大級の讃辞を贈っているのは江藤淳で、「山田詠美『ベッドタイムアイズ』を一…
二、芥川賞をもらえなかった理由 高度成長期の終焉後の一九八〇年代にデビューし、人気と実力を兼ね備えた作家として活躍を続ける山田詠美は、新人作家が純文学の正当な継承者として登録されるための通過儀礼の機能を果たしていた芥川賞を受賞していない。も…
一、ポルノ雑誌のなかの山田双葉 「ベッドタイムアイズ」で作家としてデビューする前の山田詠美は、商業誌を舞台に活躍する漫画家だった。しかも本名の山田双葉という名前で発表された漫画には、『漫画エロジェニカ』(海潮社)、『漫画大快楽』(檸檬社)、…
三、沈黙しないという選択 「壁」という比喩は、村上春樹が書いたいくつかの小説を想起させる。たとえば「街と、その不確かな壁」(一九八○年九月『文学界』)として発表された短編小説をもとに「純文学特別書き下ろし作品」として刊行された『世界の終りと…
二、壁と卵をめぐって 二○○九年二月、「壁と卵」というメタファーを使った、村上春樹のエルサレム賞の受賞スピーチがメディアをにぎわせた。イスラエルの人びとを前にこなれた英語でスピーチをする様子は、素顔を見せることがほとんどなかった村上春樹の肉声…
一、〈オウム以後〉という問題 『風の歌を聴け』(一九七九年六月『群像』)以来の村上春樹の歩みは、『ねじまき鳥クロニクル』を分岐点として大きく二つの時期に分けて考えられることが多い(注1)。その際にキーワードとしてしばしば取り沙汰されるのは、…
6月1日に発行を予定している雑誌『現代文学史研究』第16集の編集作業をしています。 締め切りが3月末だったために,大震災の影響もあって,なかなか原稿が集まらず,苦労を重ねましたが,ようやく編集作業も最終段階に入り,ほっと一息ついているところで…
ずいぶん前にアップしようとしたら,どういうわけか「不適切な文字列が…云々」ということではじかれてしまった拙文をアップしてみます。 拙著『橫光利一と敗戦後文学』第4部の冒頭部分です。今回は無事にアップできますかどうか…。 1 「ウィ・アー・ザ・ワ…
論文集『村上春樹と1980年代』刊行! 中央大学の宇佐美毅さんと東京学芸大学の千田洋幸さんが編集した論集『村上春樹と1980年代』が国文学研究関係の老舗出版社であるおうふうから刊行されました。 編者と同年代の研究者は少なく,ほとんどが気鋭の…
5、密通する政治と文学 「鉄腕アトム」を見て育ったロボット研究者たちが手塚治虫の描いた未来を現実化し始めているように、すぐれた作家の想像力によって描き出された世界がテロリストによって模倣され、現実化するということはあり得るのだろうか。近未来…
4、ストックホルム症候群 『半島を出よ』は、たんに近未来を描いているだけの小説ではない。描かれた〝近未来〟の中には、過去の日本、あるいは現在の日本も映し出されている。 たとえば、占領軍の支配下におかれた福岡市民のふるまいは、敗戦後の日本人と…
3、『半島を出よ』が描く近未来 村上龍の『半島を出よ』上・下(2005年3月、幻冬舎)は、「反乱軍」と称する北朝鮮の特殊部隊が、漁船を擬した小型船で上陸し、福岡ドームを武力占拠した上で九州の独立を要求するという〝近未来小説〟である。人質をとった…
1、大塚英志が語る9・11 2001年9月11日(火)、日本時間午後10時3分、テレビの画面の中で、世界貿易センタービル南棟に大型旅客機が衝突した。北棟に最初の旅客機が突っ込んでから約18分後の出来事だった。当時、日本時間午後10時過ぎというと、テレビ朝…
敗戦後60年目の8月に,ファン限定でアップしたものです。戦争を知らない世代の私が,戦争のことを考えるための唯一の基点とも言える体験を書きとめました。ブログ開設3周年を迎えるにあたり,限定をはずして公開します。(2008.2.10追記) 1 個人的な体験…
ブログの記事を元にした文章を写真のような研究誌に発表しました。こういう形で論文を書いたのは初めての経験です。 お堅い論文なので,全編載せずに最初と最後だけをアップします。 本当は昔の論文のさわりを載せようと思ったのですが,「登録できない文字…
先週金曜日発行の『週刊読書人』(5月6日・13日合併号)に,拙著『横光利一と敗戦後文学』(笠間書院)の書評が出ました。 評者は山形大学の中村三春さんです。『フィクションの機構』(1994年・ひつじ書房)や,小森陽一さん,宮川健郎さんとの共編著『総…
『横光利一と敗戦後文学』(笠間書院)という本を出しました! 装幀は,友人の安藤聡さんに手がけてもらいました。ごらんの通り,とても美しい装幀です(写真が今ひとつなんですが…^^;)。表紙に使われているのは,じつは横光利一のデスマスクです。髪の毛の…
ここまで書かれたら,さすがに文学研究者にも応答責任が発生してしまったのではないか,というのが読後の第一印象だ。『物語消費論―「ビックリマン」の神話学』(1989年5月・新曜社)の続編とも言える本書は,『キャラクター小説の書き方』,『「おたく」の…
はじめから伝説として存在してしまうという栄光と不幸を,埴谷雄高という作家は生涯にわたって背負い続けた。敗戦後の一九四六年(昭和21),比類のない独自の観念世界を長大な小説として語り始めた時に始まった埴谷雄高という伝説は,没後七年を経た今日に…